303 CAFE

すみずみからさきざきまで

明治時代の小説を参考に料理してみた

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茶碗鮨という料理。これが簡単でうまい。

明治時代に書かれた「食道楽」という小説がある。この小説が大好きで何度も読み返している。

大食いで少し間抜けな学生と才色兼備で料理上手なお嬢さんの恋路が話の筋だ。ただ特徴的なのは、登場人物がずーっとご飯の話をしていることだ。で、ずーっと何か作って食べている。

それがいちいち絶賛しているから食べたくなる。ただそんな昔の料理提供してくれるところなんてない。

じゃあ自分で作るしかない。作ってみた。

食道楽の紹介
「明治洋食ことはじめ」によると日本人が肉を食べるようになったのは、明治5年らしい。開国して外国の多様な食文化が入ってきたのもこの時代。西洋料理を食べるようになるまでの過渡期と言える時代に、村井弦斎によって書かれた食道楽は、庶民向けに西洋料理を紹介する本として絶大な人気を誇ったらしい。

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何度も読み返している。お気に入り。
大食いで劣等生の大原満が主人公だ。大原の友人中川の妹がヒロインのお登和譲。才色兼備でおしとやかで魅力的な女性なのだが、料理の話になると止まらない。兄中川とともに料理の作り方はもちろん、栄養学、食育など多岐にわたって説明しだす。そんな話をおかずにみんなモリモリ食べる。食べすぎはよくないなんてこと言いながらおかわりする。突っ込みだすときりがないが、そんな知識も庶民に向けて平易に解説していたところもこの小説が人気だった理由かもしれない。

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大原満(左)とお登和譲(右)
 
飯食ってる場合か
ちょっとネタバレしてしまうが、物語も後半、大原がお登和譲とは別の女性と縁談を組んでしまう。周りの人たちは慌てて、なんとか大原とお登和譲をくっつけれないかと相談する。お登和譲も相当悲しんでしまうし、なんとかしなければならない状況。
で、みんなどうするか。なんと、お弁当の献立を相談し、世の食育を憂い、カステラ焼いてコーヒー飲んでいっぷくするのである。おいおい。
読者置いてきぼりで理解を超えた行動をする。さらにさんざんお菓子を食べた後にみんなで夕ご飯にしようと中川氏が客人にふるまったのが今回再現する「茶碗鮨」だ。
読んでるほうとしては大原とお登和譲の関係が気になるが、中川氏は得意げにレシピを披露する。以下中川氏のお言葉を引用。
 
"これには鮪の身の極く上等でないといかん。羊羹のような上肉ばかりに限るのだ。その鮪を買って来て小さく四角に即ちサイの目に切っておく。別に醤油一杯と味醂一杯と酢一杯とを三等分にしてよく煮詰めて火から卸した時鮪の身を入れると鮪の端が少し白くなる。それへ山葵をなるたけ沢山入れて掻き廻すのだ。よくこの料理を泣く御飯といって山葵の辛いので泣きながら食べるといった位なものだ。別に葱の細かく刻んだのや茗荷だの浅草海苔を炙いて揉んだのと紅生姜の細かいのだの紫蘇だのを薬味にして、炊きたての熱い飯へ残らず打ちかけたのだ。"
 
要は甘じょっぱいたれで鮪の表面だけ火を通し、たっぷりの山葵とともにどんぶりにする。簡単そうだしおいしそう。もう縁談なんてどうでもいい。本を置いて材料を買いに行こう。 

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牛肉の部位を語って楽しそうなお登和譲
材料
中川氏の言葉を参考に用意した材料が以下だ。小説の中で説明されていないので分量は適当。
 
(二人分)
・まぐろ 柵で200gくらい(羊羹のような上肉じゃなくて安いメバチマグロ
・アボカド 1個(中川氏はアボカドなんて言ってないけどさ。ほらおいしそうじゃん)
・醤油 大さじ1
・みりん 大さじ1
・酢 大さじ1
・わさび チューブで10cmくらいたっぷり
・(お好みで)大葉 数枚
・(お好みで)みょうが 1個
どれも簡単に手に入る。どうだ現代すごいだろ。中川よ、アボカドなんて食べたことないだろ。
 
 
さっそく作っていこう
さっそく作っていこう。と言っても作ってみると非常に簡単だ。
1.まぐろを1.5cm角に切る。アボカドを適当にスライス。大葉、みょうがは千切りにしておく。

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まぐろは柵のままがいい。安物でいい。
 
2.醤油、みりん、酢を鍋に入れ火にかける。沸いて数秒みりんのアルコールがとんだころで火を止める。

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これくらいで火を止める。
3.急いで鮪を鍋に入れ実の表面が全体に白くなるように身を転がす。
4.チューブわさびを握りしめこれでもかと入れる。よくたれにわさびを溶かす。

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わさびのチューブを握りしめる!
5.茶碗にご飯を盛って、アボカドを載せる。鮪の身をたれとともにかける。
6.大葉、みょうがを載せる。
完成。材料を切ってしまえばものの数分で出来上がってしまった。
(完成の写真:ものの数分で出来上がり)
 

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材料切る時間合わせても10分程度で完成。
食べてみる。
早速食べてみた。醤油、みりん、酢、つまりは三杯酢という定番のさっぱりあじつけにわさびがよく合う。鮪の身のねっとりした食感は残しながら、表面だけ火を通したことで食べ応えができて新しい。これはおいしいぞ。
たれをたっぷりかけて、薬味も一緒にもしゃもしゃかきこむ。
目の前の問題そっちのけで自慢げに客人にふるまう中川氏の気持ちもわかる。大原よ、好き勝手にしたまえとそんな気持ちになる。
 
最後に
おいしかった。手軽に作れるし、おすすめ。たぶんこれから定番料理になりそうだ。
今回は手軽にできそうな茶碗鮨を選んだが、ほかにも気になるメニューはたくさんあるからまた再現して紹介したい。この小説を通して紹介されているメニューは600以上だとか。牛の顔の皮のシチューとか、牛の脳みそのコロッケとか(いやマジか中川)。
ところで中川氏、この茶碗鮨のことをこうも言っている。
"この料理はこのまま西洋皿へ盛って西洋料理の中へ出せるよ。先ず鮪のライスカレーさね。"
いや、それはさすがに違うよ中川。